妖怪 天狗とは? 入門

日本の山の妖怪というと、みなさん何が浮かぶでしょうか?

 山姥、鬼、大男等いろいろとイメージがでてくると思いますが、その中に山で起こる怪異の元凶、妖怪の「天狗」が浮かぶ方が多いかと思います。

天狗といえば、真っ赤な赤ら顔に長い鼻、山伏の恰好の姿が浮かぶと思いますが、実は天狗のその姿は江戸時代以降に定着したイメージだという事はご存じでしょうか?

 今回は天狗の歴史から現在の天狗の姿ができてきたのか調べてみました。

【目次】

・古代の天狗

中世・近世の天狗

近世の天狗


天狗のイメージの変遷

<古代の天狗>

天狗は元々は中国から伝わって来た妖怪です。

中国の歴史家司馬遷(しばせん)の書いた「史記」や

紀元前2世紀頃の中国王朝の歴史をまとめた「漢書」で、

災いをもたらす凶星(流れ星)として凶事の前兆を示す妖怪として書かれています。

天狗という字をあてられた理由としては、大きな流れ星が流れる時、

空気とぶつかる衝撃波が起こす轟音が犬の吠える声の様だ、と

当時紀元前中国の人々は表した為、「天狗」という字であらわされるようになったそうです。

日本での天狗関係のもっとも古い記事では

「日本書紀」舒明天皇9年(637年)2月条に記載されたアマツキツネといわれています。

大きな音を立てて流れた流星の事を指していたようです。

この頃の天狗は災いの前兆という立ち位置にいましたが、このイメージは後世には強く伝わらなかったみたいで、

「流星=天狗」という記事はほとんど見られなくなりました。

天狗が書物内で本格的に活躍し始めるのは

平安時代後期(10世紀末から11世紀)頃からになります。

 

平安後期に書かれた仏法説話「今昔物語」等で

天狗は様々な怪異を起こし仏様の教えを妨げるトンビのような鳥の魔物として登場します。

又、平安時代から盛んに信仰されるようになった修験道

(古神道の山岳信仰と仏教の真言密教が習合した宗教)では、

天狗は山の精霊・神として考えられ山の中を修行する修験道者や

お寺を守る存在として信仰されていました。

天狗が山伏の姿をしているのはこの修験道にかかわった為といわれていて、

カラス天狗の姿の元は、修験道の法要や会合の際に登場した

迦楼羅面(カルラ面、ガルダともいわれます。

カルラは仏法を守る天竜八部衆に所属する守護神)に影響されてできたイメージといわれています。

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<中世・近世の天狗>

中世半ばになってくると天狗は仏敵というイメージに加え、

戦を好み、戦を起こそうとする存在としての性格を持つようになっていきます。

鎌倉時代後期や南北朝時代の騒乱描いた軍記物「太平記」では権力争いに負け、

怒りのあまり憤死した天皇や高僧が魔王=天狗として

戦を起こそうと密談している様子が書かれています。

この時期から上位の力を持つ妖怪としての天狗のイメージが出てきていることが窺えますね。

この太平記5巻には、

天狗が「天王寺ノヤヨウレイボシヲ見バヤ」とはやし立てる怪異が

記されていて、古代の「流星=天狗」思想の残り香を感じることができます。


<近世の天狗>

古代・中世では仏法の敵、仏の教えを妨げる妖怪としての

地位を築き上げてきた天狗ですが、

江戸時代に入ると神田祭(東京神田大明神のお祭り)や山王祭(日枝神社の祭り。比叡山の山岳信仰と神道・天台宗)での祭りの先導役として天狗が出てくるようになります

。これは神道の天孫降臨(天皇の先祖、ニニギノミコトが日向の国に天から降りた)の際、

先導役となった猿田彦毘古神(サルタビコノカミ)の姿が影響しているようです。

猿田彦毘古神は長身で口が赤く、鼻が数十センチもある神様で、

神楽舞では赤い顔の面であらわされる所から鼻高天狗、現在の天狗のルーツになったようです。

民間信仰では神楽舞や民俗芸能等で修験道の山の精霊としての天狗が広く伝わり

天狗火や天狗による神隠しのような山の中で起こる怪異を起こす妖怪として

逸話や民話、昔話によく描かれるようになっていきました。

 このような歴史の中、今日の天狗の姿ができていったのですね。

この歴史もあってか、天狗には位によって、犬や鳥の頭を持った下級天狗から一般的な鼻高天狗までいろいろな姿、種類の天狗がいるようです。

天狗の世界にも地位・序列があるとは、うーん 世の中、世知辛いもんですね。

<天狗関連の本>

・「天狗と修験者」宮本袈裟雄 著

・「天狗考」 知切光歳 著

<引用・参照文献>

〇幻想世界の住人たち Ⅳ《日本編》

多田克己著 新紀元社発行

〇日本怪異妖怪大事典

小松和彦監修 東京堂出版発行

〇妖怪事典 村上健司著 毎日新聞社発行

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